2022年に相続税が改正され、今回は贈与税との一本化があるといわれていましたが見送りとなりました。
今回の改正で相続税の運用方法はどのように変わったのか、なぜ贈与税との一本化が見送られたのかが気になるポイントです。
相続税改正のポイント
故人が所有していた財産の額が一定額を超えている場合、相続税の納税が必要です。
相続税は定期的に改正されており、令和4年度にも税制改正が行われました。
相続税と密接な関係性がある贈与税にも一定の税制改正があり、これらの税制改正点をしっかりと理解しておくと相続が発生しても慌てることはありません。
2022年の相続税はどのような点で改正が行われたのでしょうか?
密接な関係性にある贈与税の改正も加え、この記事では令和4年度相続税の改正点について詳しく解説します。
農地における相続税や贈与税の納税猶予制度
故人が農業を営んでいる場合、相続人は農地を相続します。
農地の財産に対して相続税が発生する場合、納税に対し猶予を受けることができる特例制度が農地による納税猶予制度です。
基本的に相続税は、被相続人が亡くなったことを知ってから10ヶ月以内に納税しなければいけません。
なぜ、農地に関しては相続税の納税期限が猶予されているのでしょうか?
相続税は基本的に現金で納税しなければいけません。
相続税の納税が主な目的で農地を売却しなければならないとしましょう。
農地の売却となると、農業はできなくなりますので農地が細分化される可能性や農業をあきらめるといったケースが考えられます。
国としても、相続税納税のために農業が廃れてしまうことや農業の後継者が育たないことを歓迎していません。
農業従事者の育成や持続化に対して反することになってしまいます。
このような状況を回避するため、相続税や贈与税に関しては一定の要件を満たすことにより、納税を猶予することができます。
実はこの制度、令和4年度の改正により新たに新設されたものではありません。
もともと制度としてのスタートは1975年と随分前から農地の猶予制度が創設されていました。
今回の改正点は、農業経営基盤強化促進法等の改正を前提として猶予期間も引き続き適用されるといった内容となっています。
特定の美術品による相続税の納税猶予制度
相続の対象となる財産には、不動産や現金の他にもいくつかの種類が指定されています。
絵画や陶芸品などの美術品も財産のひとつです。
平成30年度の税制改正により、特定の美術品に関して、相続税の納税が猶予される制度が創設されました。
対象となるものは、重要文化財や重要文化財に準ずる美術品で、美術品などに寄託しているものが対象です。
これは、重要文化財に特定されるような貴重な美術品を故人が管理することによる破損リスクや、流出リスクを防ぐことが目的とされています。
一定の要件を満たすと、美術品の評価額の80%に対応する相続税の納税が猶予されます。
この制度も今回の改正で新たに創設されたものではありません。
今回、博物館法の改正を前提としたものであり、博物館の審査基準について見直しが講じられる可能性が考えられます。
しかし、美術館の見直しが講じられたあとも特定の美術品による相続税の納税猶予制度が適用されることが今回の改正により定められました。
非上場株式等の相続税・贈与税の納税猶予制度
中小企業などを経営している人が亡くなった場合、事業を承継しなければいけません。
会社の株式などを承継することになりますが、株式も財産のひとつとなり相続税の課税対象財産となります。
しかし、未上場の株式に関しては換金性に難点がある点や、評価の算出方法が複雑です。
また、会社の規模などによっては事業の相続により多額の相続税が発生する可能性もあります。
相続税の納税が大きな負担となってしまい、最悪の場合、事業閉鎖といったことも考えられるでしょう。
そこで一定の要件を満たす場合、非上場株式等の相続税・贈与税の納税を猶予することが可能です。
この制度も2008年に新たに創設されており、今回の改正で新たに創設されたものではありません。
今回の改正点は、特例承継計画の提出期限が1年間延長された点が改正点となっています。
相続税以外で改正されたのは何?
今回の税制改正は、相続税に関する部分のみの改正ではありません。
社会情勢や経済環境の変化により、さまざまな分野の税制が定期的に改正されています。
住宅ローン控除の見直しや固定資産税の負担調整措置といった改正などもあり我々の生活に直結する分野においても定期的な改正がなされているのです。
税制がどのように変わったのかをきちんと把握している人は少なく、詳しくチェックしている人はそう多くはありません。
しかし、いつの間にか税金が高くなっていると驚かないためにも、日ごろからチェックしておくように意識することが重要です。
相続税と密接な関係性がある贈与税の改正について
今回の改正では相続税と密接な関係性を持つ贈与税についても改正がなされました。
なぜ、相続税と贈与税は密接な関係性にあるのでしょうか?
相続税が発生する要因として財産額が多いことが挙げられます。
基礎控除額を差し引いても財産がある場合に発生するのが相続税ですので、亡くなった時点の財産を抑えることを目的として贈与を有効活用するケースが見受けられます。
そのため、相続が発生する前に贈与を行いますので、贈与税に関しても十分に注意しておく必要があるのです。
ここからは贈与税の改正点について解説します。
教育資金の贈与について
教育資金の贈与について、孫などの直系尊属に教育資金として贈与を行う場合1,500万円まで非課税となります。
この制度は平成25年4月に創設されましたが、今回の改正により令和5年3月31日まで提供期限が延長されました。
しかし、今まではいくら贈与して非課税だったとしても、贈与者の死亡前3年以内の贈与に関しては相続税の対象でした。
今回の改正において、贈与から経過した年数にかかわらず贈与者死亡時の残高へと改正されています。
条件面が改正されていますので教育資金における贈与を利用する場合は押さえておきたいポイントです。
結婚や子育て資金の贈与について
教育資金の贈与と同様、20歳以上50歳未満の子供や孫に対する結婚や子育て資金の贈与については受贈者ひとりあたり1,000万円までは非課税とされています。
この制度も平成27年に創設され、今回の改正において令和5年3月31日までに延長されました。
今回の改正では受贈者の年齢が引き下げられました。
今までは20歳以上50歳未満の子供や孫が対象となっていましたが、18歳以上に改正されており、少し適用の幅が広がったといえるでしょう。
住宅資金の贈与について
父母や祖父母から住宅資金として贈与を受ける場合、住宅の種別によって異なりますが、一定金額までは非課税となっています。
今回の改正では相続時精算課税制度を受けた場合の特例について改正が行われました。
条件として、贈与者が60歳以上の父母や祖父母であることが条件とされていましたが、今回の特例では一定要件を満たすことで60歳未満の贈与であっても対象となります。
相続税はどう改正されている?相続税改正の流れ
税制は、社会情勢や経済情勢の変化によって定期的な改正を繰り返しています。
令和4年度の相続税に関する改正は比較的穏やかな改正といわれていますが、今までにはどのような改正が行われていたのでしょうか?
改正の変化や流れについて解説していきましょう。
最も大きな変更は平成25年
最も大きく、相続税が改正されたのは平成25年です。
今までの相続税が大きく変わったことで注目されましたが、どのような改正が行われたのかが気になります。
大きな変更点としては下記3点です。
- 基礎控除額の引き下げ
- 相続税率の変更
- 控除額の引き上げ
上記3点の変更点が気になります。
基礎控除額の引き下げ
最も大きな改正ポイントが基礎控除額の引き下げです。
財産<基礎控除額の場合は、相続税は発生しません。
財産>基礎控除となったときに相続税が発生しますので基礎控除額の引き下げによって2倍程度相続税の課税対象となる人が増えたともいわれています。
基礎控除額の変更は下記の通りです。
変更前 | 5,000万円+法定相続人の数×1,000万円 |
---|---|
変更後 | 3,000万円+法定相続人の数×600万円 |
非常に大きな改正が行われました。
相続税率の変更
相続税率が変更された点も挙げられます。
最高税率が今までは50%だったのが55%へと変更され、税率が今までは6段階により課税の税率が定められていましたが8段階へと変更されました。
この点も大きな変更となり、課税額が増えた要因ともなっています。
いくつかの控除額が引き上げ
先ほど、基礎控除より財産が多いか少ないかで相続税の課税対象が決まると前述しました。
しかし、未成年者や障害者が相続人であった場合も控除の対象となっており、控除額が引き上げられています。
今までより、少し優遇されたのが注目ポイントです。
変更点を表にまとめました。
改正前 | 改正後 | |
---|---|---|
未成年控除 | 20歳に達するまでの年齢×6万円 | 20歳に達するまでの年齢×10万円 |
一般障害者控除 | 85歳に達するまでの年齢×6万円 | 85歳に達するまでの年齢×10万円 |
特別障害者控除 | 85歳に達するまでの年齢×12万円 | 85歳に達するまでの年齢×20万円 |
基礎控除額の引き下げや、税率の変更などによって比較的負担が増えたと思われる相続税の中で、対象者に対して少し緩和された流れといえるでしょう。
相続税と贈与税の一本化改正が見送り!なぜ?
今回の相続税における改正ポイントは比較的穏やかだったと解説しました。
今回の改正では相続税と贈与税が一本化される可能性があるといわれていたのが見送られています。
今回、相続税と贈与税が一本化されていれば大幅な改正となっていたのでしょうが、見送られたのも今回改正が穏やかであったといわれる要因でしょう。
一本化によって想定される変更点や一本化されなかった理由などについて詳しく解説します。
一本化による暦年贈与の廃止
贈与においてひとりあたり毎年110万円までの贈与に関しては課税されません。
生前贈与で100万円の範囲内の贈与を繰り返すことにより、相続財産を抑える効果があります。
相続税と贈与税が一本化されると、暦年贈与は廃止となり、相続時精算課税制度のみを利用することになるといわれています。
相続や贈与において暦年贈与の廃止は非常に大きな問題で、今後の動向に注目しなければいけません。
一本化による影響の大きさを懸念した?
暦年贈与が廃止となると、相続の対象となる人たちには大きな影響を与えます。
どちらかといえば、増税と受け取る人も多く、反発を招く可能性もあるでしょう。
今回の改正で一本化することによる、影響の大きさを汲んだうえで今回は見送られたともいわれています。
改正における影響をなるべく抑えるためにも今回は断念したのかもしれません。
今回はあくまでの先送り!いずれ一本化する
暦年贈与は、今回一本化が見送られたことで、今後も暦年贈与が無くなることはないと考えているとしたら早計かもしれません。
相続税と贈与税を一本化するといった動きに変化はないというのが大半の専門家の見方でもあります。
生前贈与として暦年贈与はいずれ利用できなくなるといったことを念頭に置きながらの相続税対策が必要となるでしょう。
まとめ
相続税は、一般の人には大きな関心ごとではなく、資産家に降りかかってくるものととらえられがちです。
しかし相続財産は現金だけではなく、さまざまなものがあり、財産の中には思った以上の評価額だったといったケースも考えられるのです。
いざ、相続となってから慌てないように、今回のような改正点などをしっかりと理解した上で相続税に対する備えを行っておく必要があるでしょう。